サーヴァリアマフィア危機
概要
コンスピラシーの遺産
「コンスピラシーの時代」と呼ばれる、古代文明の遺産を巡って各国が諜報戦を繰り広げた時代の後、古代遺産の解析が進められ、その全容が明らかとなった。
古代遺産には、超古代文明の埋蔵資産とされるローン・リュイクトが内蔵されていた。ローン・リュイクトは、宇宙の未探索領域において現在も稼働を続けていると推測される古代文明の中継基地によってバリデーションが行われる、高度に暗号化された暗号資産であった。
発見されたローン・リュイクトは、ヴァルエルク共和国とゼール帝国連邦の秘密協定に基づいて両国間で分配され、その存在とともに厳重に秘匿された。しかしその後、サイバーテロリスト集団『ディガイナ』によるハッキングを受け、その一部が外部へ流出した。
ディガイナはアナーキズムを掲げるハクティビスト集団であり、国家や金融機関による管理を受けないローン・リュイクトを「自由の通貨」と位置づけ、世界規模で流通させることを目的としていた。
この流出したローン・リュイクトに着目したのが、各地の犯罪組織であった。高度な情報化と監視技術が普及した当時の社会では、従来型の犯罪組織は活動規模の縮小を余儀なくされていた。しかし、既存の金融システムを介さずに取引可能なローン・リュイクトの登場によって、犯罪組織の活動は再び活発化していった。
惑星ハベヂレゴの混乱
サーヴァリア王国連邦は、ゼール・サーヴァリア戦争の最中から深刻な混乱状態に陥っていた。ヴァルエルクから借り入れた戦時債務は返済の見通しが立たなくなっており、戦後には社会主義運動や監理主義運動をはじめとする、さまざまな反政府運動が各地で発生した。
特に、失業者対策を目的として開拓された移民惑星ハベヂレゴでは、戦時中の徴兵に対する反発や、他惑星との経済格差、中央政府への不満などを背景として反政府運動が激化した。
ハベヂレゴ地方政府は戦時中からすでに腐敗が進行しており、各地の犯罪組織との結びつきを強めていた。特にローン・リュイクトの流通開始以降は、タズリオン・シンジケートが多数の犯罪組織を吸収し、急速に勢力を拡大した。
戦後のハベヂレゴ地方政府は、破滅主義を掲げるテロリスト集団「ゴルギスト」の活動を意図的に誘発・助長したとされる。地方政府はテロ活動の拡大によって治安不安を煽る一方、PMCや犯罪組織と癒着し、治安維持や住民保護を名目とした事業によって利益を得ていた。さらに、自らが生み出した治安上の脅威から住民を保護する構図を形成することで、低下していた政府への求心力を回復させようとした。
その後、ベリオン共和国で「懸賞金戦争」が始まると、ハベヂレゴ地方政府もこれを模倣し、ゴルギスト構成員の討伐に対して懸賞金を設定するようになった。当初、この制度は主としてテロ組織を対象としていたが、犯罪組織の勢力拡大によって地方政府との対立が深まると、1670年には一般の犯罪組織およびその構成員にも懸賞金制度が適用された。
タズリオン・シンジケートの台頭
タズリオン・シンジケートはアナーキズムをイデオロギーとして掲げ、犯罪組織でありながら次第に政治組織としての性格を強めていった。タズリオンは国家による規制を排した自由社会の実現を標榜し、違法薬物の製造・使用や人身売買を含む一部の犯罪行為を事実上黙認することで、個人の行為とその結果を全面的に個人へ帰属させる「自己責任による自由社会」の構築を目指していた。この思想は、ハクティビスト集団ディガイナ内部の一部派閥が掲げていた思想とも一致しており、タズリオンはこれらの派閥の一部を吸収した。
タズリオンはハベヂレゴ地方政府の汚職や犯罪組織との癒着を暴露することで地方政府の求心力を低下させる一方、政府と契約関係にあったPMCの一部を買収し、自らの勢力下に置いた。これによって他の反政府勢力に対する優位を確立し、最終的には惑星ハベヂレゴにおける政治的覇権の掌握を目指すようになった。
タズリオンの主要な資金源は、違法薬物の製造・密輸、人身売買、武器製造などであった。特に武器製造は重要な収益源となっており、代表的な製品としてレールガンライフル「Kedet12」が知られている。Kedet12は政府の兵器登録制度を経ずに製造される密造兵器であり、バッテリー式カートリッジを採用した比較的単純な構造を特徴としていた。製造や整備が容易であったことから、ハベヂレゴのみならず惑星外の犯罪組織にも広く流通した。
レーウス方面ではプトーキン帝国の犯罪組織「プトーガルド」に、エルミア方面ではエルミア共和国の犯罪組織「ラ・ペルセンステウグ」にそれぞれ密輸・流通を委託し、星外市場から巨額の利益を得た。また、外カーラネのハッカー集団「アルデェオ」とプトーガルドの間で情報を仲介するなど、各地の犯罪組織や非合法組織を結びつける役割も担った。こうしてタズリオンは単独の犯罪組織から、星間犯罪ネットワークにおけるハブへと発展し、急速に勢力を拡大していった。
タズリオンは星外での犯罪活動によって獲得した外貨や物資をハベヂレゴへ還流させ、長期的な混乱に陥っていた地域経済を部分的に立て直した。また、地方政府が十分な統治能力を失う中で一定の治安と経済秩序を形成したことから、次第に市民からも支持を集めるようになった。
タズリオンの支配地域では、多くの住民が星外輸出を目的とした違法薬物や武器の製造などに従事するようになった。タズリオン自身もこうした非合法経済への参加を奨励し、犯罪活動によって得られる富を地域社会へ再分配することで勢力基盤を拡大した。
この結果、タズリオンは単なる犯罪組織としての枠組みを越え、独自の経済圏・治安機構・対外関係を有する準国家的組織へと変貌した。やがて同組織は、犯罪経済とアナーキズムを基盤とした新たな政治体制の樹立を掲げ、世界初の犯罪組織を起源とする国家「タズリオン自由主権連合」の建国を目指すこととなった。
ヴァルエルク共和国の激怒
ハベヂレゴにおける混乱の拡大と地方政府の求心力低下を受け、サーヴァリア中央政府は治安維持を目的として陸軍を派遣した。しかし、首都惑星リーファイにおいても反政府運動が頻発していたことから、ハベヂレゴに投入可能な兵力は限られており、軍事行動は大きく制約された。
一方、ヴァルエルク共和国をはじめとする周辺諸国では、タズリオン・シンジケートの勢力拡大に伴って違法薬物や武器の密輸が増加し、国内治安への実害が生じるようになった。
これを問題視したヴァルエルク共和国大統領マグダーは、タズリオンの排除を目的とした惑星ハベヂレゴへの軍事介入を提案した。しかし、外国軍の進駐によってサーヴァリアの主権が侵害されることを警戒した同国大統領プロドログは、ヴァルエルク軍の受け入れに慎重な立場をとった。
ヴァルエルクが単独での軍事介入に踏み切れない中、カーラネ社会主義連邦共和国およびゼール帝国連邦も介入問題に関与するようになった。両国は、ヴァルエルクによる単独介入が行われた場合、タズリオンのみならず、ハベヂレゴで活動していた社会主義勢力や監理主義勢力も同時に弾圧される可能性があるとしてこれに反対し、代わってレーウス協定軍による多国間介入を主張した。
しかし、介入主体や派遣兵力、作戦目的を巡って各国の利害が対立したため、具体的な軍事行動について合意を形成することはできなかった。この政治的膠着によってタズリオンに対する有効な対応は遅れ、その間にも同組織はハベヂレゴ各地で勢力を拡大していった。
ハベヂレゴ掃討戦
惑星リーファイでは、中央政府の求心力低下に伴って各地の分離勢力が影響力を強めていた。国内情勢がさらに不安定化する中、1678年、サーヴァリア首相プロドログは、それまで慎重な姿勢を示していたレーウス協定軍の派遣を正式に承認した。
派遣決定を受け、協定軍各国の艦隊は犯罪勢力の惑星外への逃亡および武器・資金の流出を阻止するため、惑星ハベヂレゴ周辺の封鎖を開始した。続いて地上部隊が各地へ投入され、タズリオン・シンジケートをはじめとする犯罪勢力の排除を目的とした大規模な軍事作戦が開始された。これが後に「ハベヂレゴ掃討戦」と呼ばれる戦いである。
犯罪勢力は正規軍と比較して装備や兵站能力で大きく劣っていたものの、長年にわたって活動してきた地域の地理や都市構造を熟知しており、各地で地の利を活かした抵抗を展開した。また、レーウス協定軍内部でも各国の思惑は一致していなかった。各国はハベヂレゴで活動する反政府勢力のうち、自国と思想的・政治的に近い勢力をそれぞれ支援しており、作戦地域や攻撃対象を巡ってたびたび対立した。このため統一された指揮系統を構築することができず、協定軍は予想以上の苦戦を強いられた。
さらに、ハベヂレゴでは犯罪経済がすでに地域社会へ深く浸透していた。長期的な貧困と失業に苦しむ住民の中には、より豊かな生活を得るため、違法薬物や密造兵器の製造、密輸などに集団で従事していた者も少なくなかった。
こうした住民の間では、協定軍による制圧後、それまで犯罪経済に関与していた者すべてが処罰されるのではないかという懸念が広がった。このため、タズリオンの思想や政治目的に必ずしも賛同していない住民までが、自らや家族を守る目的から犯罪勢力に加担し、協定軍に抵抗する事例が相次いだ。
この状況を受け、協定軍は住民と犯罪組織を切り離す方針へと転換した。協定軍司令部は、犯罪組織の一般構成員や犯罪経済に参加していた民間人については、協定軍への抵抗を停止し捜査に協力することを条件として、原則として過去の犯罪行為を不問とする方針を発表した。
一方、タズリオンをはじめとする各犯罪組織の指導者や幹部、重大犯罪に直接関与した者については引き続き責任を追及するとし、住民に対して犯罪勢力から離脱し協定軍へ協力するよう広く呼びかけた。
分離勢力乱立へ
協定軍による惑星包囲が長期化するにつれ、タズリオン・シンジケートは次第に求心力を失い、民衆の支持も離れつつあった。
惑星が封鎖されるなか、協定軍参加国は人道支援を名目として物資の配給を行う一方、それぞれが自国と思想的に近い分離勢力への支援を開始した。なかでも強大な勢力へ成長したのが、カーラネ社会主義連邦共和国の支援を受ける共産主義勢力「ハベヂレゴ牧歌派」と、ゼール帝国連邦の支援を受ける監理主義勢力「知識人連盟」である。
自由主義国家であるヴァルエルク共和国は、ハベヂレゴ地方政府の求心力低下以来、一貫してサーヴァリア中央政府の主権回復を支持しており、中央政府軍への支援を続けた。しかし、ハベヂレゴ住民の間では、長年にわたる貧困政策や移民政策を背景としてサーヴァリア中央政府への失望と反発が根強く、中央政府への支持は回復しなかった。むしろ、民衆の支持は各国が支援する分離勢力へと流れていった。
こうしてハベヂレゴでは、タズリオン・シンジケートの弱体化後も安定は訪れなかった。犯罪組織による支配が後退したことで生じた権力の空白を埋めるように、各国の支援を受けた分離勢力が次々と勢力を拡大し、惑星の主導権を巡る政治闘争が激化していった。その緊張が決定的に破綻したのが「バルファイ事件」である。ヴァルエルク共和国の支援を受けたサーヴァリア中央政府軍は、分離勢力の排除を進めるなかで、特に急速に勢力を拡大していたハベヂレゴ牧歌派と衝突し、同派勢力へ発砲した。
これを牧歌派に対する武力弾圧とみなしたカーラネ社会主義連邦共和国は、牧歌派の保護を目的として義勇軍の派遣を決定する。これにより、それまで犯罪組織掃討と分離勢力間の政治対立として続いていたハベヂレゴの混乱は、ついに外国勢力が直接関与する武力紛争へと転化した。
このバルファイ事件を契機として、サーヴァリア内戦の火蓋が切られた。

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