ゼール・サーヴァリア戦争

ゼール・サーヴァリア戦争

 ゼール・サーヴァリア戦争は、シンテーア暦1659年から1668年にかけて行われた戦争である。主にゼール帝国連邦とサーヴァリア王国連合との間で行われた。
なお、1656年頃から発生した経済戦争を本戦争に含める研究者も存在する。

経緯

ドルーニア星系の帰属問題

牧歌的な生活を送るドルーニア人

 惑星ドルーニアを含むドルーニア星系は、シンテーア帝国が1587年に領有を発表しているが、これはサーヴァリア王国連合が同星系への経済的進出を進めていた最中に行われた、一方的な併合宣言であった。その後、1617年にゼール帝国連邦が成立すると、惑星ドルーニアはドルーニア帝国自治政府の管轄下に置かれ、サーヴァリア側の抗議が続く中で、ゼール政府は支配の既成事実化を進めていった。

 一方、ドルーニアには牧歌的な生活様式を持つドルーニア人が原住民族として居住しており、ゼール帝国連邦中央政府による技術的啓蒙政策を一貫して拒否していた。帝国連邦政府は惑星ヴェオン・レギトおよび惑星ヒェルニエの開発に注力していたため、惑星ドルーニアについては、牧歌的な自治領として事実上放置する方針を継続していた。

 拡大を続けたゼール帝国連邦では、ウーナ政権期に掲げられた大規模開発構想のもと、各地で地方開発が推進されてきた。
1620年に成立したミット政権では、財政逼迫を意識した抑制的な政権運営が行われたものの、1640年に成立したモイエナ政権において大規模開発路線が再開され、結果として帝国財政は再び悪化した。こうした状況の中で、技術啓蒙および開発を拒否し続ける惑星ドルーニアについて、帝国連邦内ではその存続意義を疑問視する、いわゆる「不要論」が議論されるようになった。

ドルーニア売却交渉を締結したモイエナ首席とラディア6世

 1645年、帝国連邦モイエナ首席は、永世中立国かつ金融大国であるハトレーヤ王国に対し、ドルーニア星系の売却を呼びかけ、交渉を開始した。ドルーニア星系はハイパーレーン上においても、公益および金融活動の両面で有利な位置に存在しており、公益性を重視してこなかったゼール帝国連邦からの売却提案は、ハトレーヤ王国にとって一定の魅力を持つものであった。
しかし同時に、サーヴァリア王国連合との関係悪化を回避する必要があったため、ハトレーヤ王国は交渉に対して慎重な姿勢を取らざるを得なかった。

 ゼール側はドルーニア帰属問題を国際司法裁判所で解決するよう提案したが、売却を持ちかけたれているハトレーヤ側が影響力を発揮する国際司法裁判所に置いて中立性が担保されないと、サーヴァリア側が拒否を示した。

サーヴァリア右派政権の誕生

ケデット・デイヴェット首相

 1654年、サーヴァリア王国連邦では、ケデット・デイヴェット率いる右派政権が誕生した。ケデット政権はサーヴァリア・ナショナリズムを全面に押し出し、ゼール製製品への依存によって停滞していた国内産業の改革を掲げるとともに、反ゼール路線とドルーニア星系の奪還を主張した。また、同政権は急激な軍備拡張を進め、これに対してゼール帝国連邦は、軍事産業への転用防止を名目として、最先端部品産業に対する大規模な輸出規制を実施した。

 この措置により、ゼールの最先端部品産業に強く依存していたサーヴァリア経済は打撃を受け、企業の株価下落などの影響が生じた。しかし、対決姿勢を鮮明にするケデット政権の支持率は安定して推移していた。一方で、サーヴァリア向け輸出の比率が高かったゼール経済も一定の損害を受けたものの、両国間の対立は相互のナショナリズムを刺激し、二国の対立構造は決定的なものとなった。

世界同時食糧危機

  1654年、食料輸出大国であるヴァルエルク共和国、ならびにゼール帝国連邦の友好国であり高い食料自給率を有する天嶺皇国において大規模な不作が発生した。さらに、同じく食料輸出大国であるカーラネ社会主義連邦共和国でも不作が発生した。
これらの不作はいずれも原因を異にするものであったが、同時期に重なって発生したことにより、レーウス諸国全域において深刻な食糧不足が生じることとなった。

 ヴァルエルク共和国およびカーラネ社会主義連邦共和国は、食料輸出を制限することで自国の食糧問題への対処を進めたが、その一方でサーヴァリア王国連合およびゼール帝国連邦では食料不足が深刻化していった。特にゼール帝国連邦では、1625年以降に推進されてきた工業化政策の影響により、食料自給率の低下が進行していた。このためゼール帝国連邦は、レーウス宙圏外諸国との関係強化を進め、タシュトヘム宙域のニーネン=シャプチアクース連邦と共同でガニュー経済体制を設立することで、食料自給問題の解決を図った。

 しかし、レーウス宙圏外諸国への接近を強めるゼール帝国連邦の姿勢は、ヴァルエルク共和国をはじめとするレーウス諸国から強い警戒を招いた。ゼールは「レーウス外文化圏からの侵略の足がかりを与えている」「レーウスの裏切り者」といった非難を受け、結果としてレーウス宙圏内における政治的孤立を一層深めることとなった。これに対し、ヴァルエルク共和国のウィーロン農相はサーヴァリアとの連携を表明し、サーヴァリアへの食料輸出と飢饉への救済を行い両国の伝統的な友好関係をアピールした。

経済戦争の勃発

ヅィーラ・ジェイス首席

ゼール帝国連邦は伝統的にヴァルエルク共和国を主要な仮想敵国としてきたが、これに代えてサーヴァリア王国連邦を新たな仮想敵国とする戦略を主張したのが、ヅィーラ・ジェイス宙軍中将であった。サーヴァリアとの対立が次第に鮮明化する中で、ゼール帝国連邦はヅィーラを首席に選出し、ヅィーラは挑発を強めるサーヴァリアのケデット政権に対し、強硬な姿勢で反発した。

 食糧危機が進行するさなかの1655年、ゼール帝国連邦の地方経済ノード(他国における銀行に相当する金融機関)において、世界的なブロックチェーン通貨であるチェーン・ゴールドが大量に盗難される事件が発生した。ゼール警察は、本事件の主犯がサーヴァリア王国連合のハッカーグループであるとする声明を発表し、これまでセキュリティ大国として知られてきたゼール帝国連邦がハッキング被害を受けたことは、世界に大きな衝撃を与えた。

 同年、特許技術の不正取得を試みたとして、ゼール国内においてサーヴァリア王国連合系企業であるザグリ・ラッザフェガの社員26名が逮捕される、いわゆる「ザグリ・ラッザフェガ事件」が発生した。これに対し、サーヴァリア外相フレドン・マガフスはゼール帝国連邦を痛烈に非難し、サーヴァリア政府は国内における一部ゼール企業の資産凍結措置を実施すると発表した。

ザグリ・ラッザフェガ事件で拘束されるサーヴァリア人

 これに対抗する形で、ゼール帝国連邦の複数の経済ノードは、サーヴァリアの法定通貨であるヅィンカ、サーヴァリア国債、および大手財閥株式に対し、同時に大規模な空売りを仕掛けた。その後、複数のサーヴァリア企業に関する粉飾決算、不正行為、ならびにスキャンダル情報が同時多発的にリークされる「ナゲディロンの暴露事件」が発生し、サーヴァリア経済は通貨安・株安・債券安が同時に進行する、いわゆるトリプル安の状況に陥った。さらにゼール帝国連邦は、サーヴァリアの民間企業に対しても最先端部品の輸出規制を実施すると発表し、サーヴァリア経済の混乱を一層深刻化させた。

 これら一連の事態に対し、ヴァルエルク共和国およびハトレーヤ王国は、ゼール帝国連邦が国家規模の経済攻撃を実行した可能性があるとして非難を強めた。しかし、ゼール帝国連邦は国家主導の高度なセキュリティ政策および技術国家政策によって多数の最先端部品技術を事実上独占しており、レーウス諸国は実効性のある経済制裁をゼールに対して行うことができなかった。

 こうして一連の経済攻撃を受けたサーヴァリアのケデット政権は、国内に高まった反ゼール感情の後押しを受け、ゼールに対する軍事攻撃の実行を決断するに至った。サーヴァリアは、ゼール国内におけるサーヴァリア企業の撤退を決定するとともに、国民に対して反ゼール姿勢を明確にするよう呼びかけた。これに呼応する形で、ゼール帝国連邦もまた、サーヴァリア国内からの自国企業の撤退を決定した。

ナゲディロンの暴露事件でパニックになるサーヴァリア系ヘッジファンド

 両国はイデオロギー的には対立しつつも、「戦略的互恵」を掲げて長年にわたり経済協力関係を維持してきたため、相互撤退による経済的打撃は両国にとって極めて大きなものとなった。経済戦争によってサーヴァリアが被った被害が大きいように見えるが、一方でゼールの製造業もまた、サーヴァリア国内の組立産業に大きく依存しており、その損失規模は正確に測定することが困難であった。

 こうした一連の外交的断絶と経済的対立の激化により、ゼール帝国連邦とサーヴァリア王国連合の関係は、もはや平和的解決の余地を失っていった。相互不信とナショナリズムの高揚、ならびに経済戦争によって形成された敵対構造は、両国の指導部にとって武力衝突を現実的な選択肢として浮上させるに至った。かくして、ゼール・サーヴァリア間の対立は外交および経済の領域を超え、軍事衝突へと不可逆的に移行していくこととなる。

 サーヴァリア政府は、ゼールとの開戦になれば、ゼールはドルーニア売却で得る利益以上の代価を支払うことになるため、一撃を加えれば交渉の席につくと考えており、初動の軍事力はサーヴァリアが圧倒していたため、サーヴァリア軍部は自身の勝利を疑っていなかった。

戦争へ

 1659年15月、サーヴァリア王国連邦軍は、ドルーニア星系に隣接するツァヴィオン星系において大規模な軍事演習を実施すると宣言し、主力艦隊を同星系に集結させた。ゼール諜報軍は、サーヴァリアによるドルーニア星系攻撃計画を事前に察知していたが、同星系の開発は長期間にわたり停滞しており、星系基地の要塞化も実施されていなかった。

 演習期間中、サーヴァリア軍はゼール宙軍による挑発行為があったと主張し、これを正当な反撃と位置付けてゼール領内への攻撃を開始した。この攻撃を受け、神国同盟条項に基づき天嶺皇国はゼール防衛を理由としてサーヴァリアに宣戦布告した。これにより、三国は正式に戦争状態に入った。

 サーヴァリア宙軍がドルーニア星系へ侵入する以前に、ゼール軍は同星系の防衛を継続する意思を示しつつ、戦力の温存を目的として計画的な撤退を実施した。その結果、サーヴァリア軍は惑星ドルーニアへの降下作戦を行い、組織的な抵抗を受けることなく占領を完了した。

 サーヴァリアの作戦目的は、ドルーニアの占領に限定されるものではなかった。同国はゼールを早期に降伏へ追い込むことを目的として、他の居住可能惑星への攻撃を計画し、ゼール領惑星エルナー・ゲリテーンに対する攻撃作戦を発動した。
これに対しゼール軍は、サーヴァリア国境付近に位置し、強固に要塞化されていたEG3星系に戦力を集中させ、サーヴァリア宙軍の侵攻に備えた。

サーヴァリアはドルーニアの占領後、ゼールが技術啓蒙を避け、自治権を与えていたドルーニア人に対し強制徴用などを行った。惑星にとどまったゼール人等がサーヴァリアによる人権侵害をSNS等に投稿し、波紋を呼んだ。これに対しサーヴァリアはゼールによるプロパガンダであると主張した。

第一次EG3の戦い

 1659年16月、EG3星系に侵入したサーヴァリア宙軍は、侵入と同時に攻撃行動を開始した。サーヴァリア宙軍の戦術ドクトリンは、大量の中規模艦を主力とする中距離戦を基調とするものであった。一方、ゼール宙軍は大型艦を主体とするヴァルエルク宙軍との交戦を想定し、少数精鋭による長距離戦を前提としたドクトリンを採用していた。EG3星系に配備されていた要塞群は、中距離戦術を主とするサーヴァリア宙軍への対抗を想定して設計されたものであったが、艦隊ドクトリンの差異により、ゼール宙軍が戦術的に不利な状況に置かれていることは明白であった。

ミルコヴァ提督

 サーヴァリア宙軍の作戦指揮官ミルコヴァ・ゲリティェッツァは、ゼール宙軍の戦術的弱点を把握していたほか、国内経済がゼール経済に依存していることから、戦争が長期化した場合に不利となる点を認識していた。

 本戦争は、レーウス文明が宇宙進出を果たして以降、宇宙空間で行われた初の国家間戦争であり、両軍とも実戦経験に乏しく、シミュレーションに依拠した戦術運用を余儀なくされていた。この状況を踏まえ、ミルコヴァ将軍はゼール・天嶺両宙軍が戦争環境に適応する前に決着を図る電撃作戦を立案した。同作戦は、総攻撃によってEG3要塞を突破し、エルナー・ゲリテーン星系への進出を目標とするものであった。

 EG3星系では天嶺宙軍が防衛戦闘において奮戦したものの、ゼール宙軍指揮官ヅィーラ元首席は、主力戦艦がサーヴァリア宙軍の有効射程内に入る前に、全軍撤退を決断した。これと並行して、サーヴァリア宙軍は後方で待機させていた揚陸艦部隊を投入し、EG3星系基地の掌握作戦を開始したことから、同星系では地上戦が発生した。

 当時の世論では、ゼール軍が決戦を回避して早期撤退を行ったことに対する批判も見られた。しかし、EG3星系での戦闘においてはサーヴァリア宙軍の損失がより大きかったとされ、ゼール政権内部ではヅィーラ元首席による撤退判断を妥当とする意見が多数を占めた。

ヴァルエルク共和国のサーヴァリア支援
ケデット首相と握手するヴァルエルク、ラッカー外相

 サーヴァリア首相ケデットはヴァルエルクへ出向きラッカー外相と会見し、ゼールのイデオロギー的脅威を訴え関係を強化することで、サーヴァリアへの物資支援を引き出した。しかし、ゼール・サーヴァリア戦争は形式上はサーヴァリアの侵略戦争であり、ヴァルエルク国内では各地でサーヴァリア支援に反対するリベラル派デモが多発するに至った。

 一方でタシュトヘム宙域のニーネン=シャプチはこれに対しゼールへの追加経済援助を発表し、ヴァルエルクとの緊張をより加速させた。

エルナー・ゲリテーン星系戦

 1660年1月、サーヴァリア宙軍は、EG3星系でゼール宙軍を撃退すると、同星系基地の完全掌握を待たずにエルナー・ゲリテーン星系へ侵入した。同星系には、有人惑星であり、かつゼール有数の資源地帯である惑星エルナー・ゲリテーンが存在していた。

 ゼール・天嶺連合艦隊は同惑星の防衛を必要としていたが、サーヴァリア宙軍の急速な進撃に十分対応できていなかった。同星系において再び両軍による大規模な艦隊戦が発生したが、サーヴァリア宙軍は損害を受けつつも、中型艦を用いた高リスクの突撃戦術を実施した。これによりゼール・天嶺連合艦隊を有効射程内に捉え、集中的な攻撃を加えた。

ゼール艦隊旗艦、戦艦パラミラート3世

 この戦闘において、サーヴァリア艦隊およびゼール・天嶺連合艦隊は双方ともに大きな損害を被ったものの、最終的にはサーヴァリア艦隊がエルナー・ゲリテーン星系の制宙権を掌握した。ゼール艦隊の旗艦である戦艦パラミラート3世は集中攻撃を受けて撃沈され、同艦に搭乗していたヅィーラ提督は脱出艇により惑星エルナー・ゲリテーンへ退避した。

 制宙権掌握後、サーヴァリア宙軍は揚陸艦部隊を星系基地および惑星エルナー・ゲリテーンへ向けて進発させ、地上侵攻作戦を開始した。ゼール側は、同惑星の資源がサーヴァリアに奪取されることを警戒し、陸軍戦力を大規模に配備しており、その抵抗は激しいものとなった。

 惑星エルナー・ゲリテーンは山岳地形を主体とする惑星であり、資源地帯周辺には地上要塞が多数配置されていた。これらの要塞から、地上降下を試みるサーヴァリア軍揚陸艦に対し集中攻撃が行われた。サーヴァリア陸軍は一定の損害を被ったものの、位置を特定した要塞に対しサーヴァリア艦隊が精密攻撃を実施し、これを無力化した。その後、地上降下作戦が再開され、上陸は成功した。

 上陸完了後もサーヴァリア艦隊は惑星封鎖のため、艦隊を星系内に待機させ続ける必要があったが、戦闘での損傷が激しい一部艦艇を本国に帰還させる措置を講じた。エルナー星系はサーヴァリアの造船基地のある惑星ハベヂレゴから4星系離れており、サーヴァリア宙軍はこれ以降前線の戦力維持に苦戦する事となる。

 エルナー・ゲリテーン宙域戦はサーヴァリア国内で大々的に報道され、レーウス大国であるゼール宙軍が宙域戦で敗北したことは、レーウス諸国にも衝撃を与えた。ゼール国内ではヅィーラ提督の敗北とともに、長期戦ではゼールが優位であることとニーネン・シャプチからの経済支援が継続していることが繰り返し報道された。

惑星エルナー・ゲリテーン地上戦

近代化武装をするエルナー人

 エルナー・ゲリテーン地上戦は、ゼール・サーヴァリア戦争を代表する地上戦の一つであり、近年において例を見ない規模の戦闘が展開された。惑星エルナー・ゲリテーンの原住民族であるエルナー人は、シンテーア人を神格的存在として崇拝し、外部からの思想的・技術的啓蒙を拒否する文化的特性を有していた。一方で、同惑星は山岳地形を主体とする環境であり、エルナー人はその地形に高度に適応した生活様式と身体的特性を備えていた。

 ヅィーラ政権は本戦争の可能性を見越し、エルナー人に対する思想的・技術的介入を抑制しつつも、約3年にわたり戦闘訓練を実施し、地上戦への適応能力を段階的に強化していた。

 同惑星は重要な資源惑星であったことに加え、山岳地形の影響により宙域からの精密攻撃が制約を受ける環境にあった。また、物資補給が地上経路によって維持可能であったことも防衛側に有利に作用した。これらの要因に、地形を熟知した原住民族の参加が加わり、サーヴァリア地上軍は作戦遂行において大きな困難に直面した。

ゼールの倫理違反問題
エルナー・ゲリテーン第48実験大隊隊長、S:1048-8742-6000

 エルナー・ゲリテーン地上戦の過程において、サーヴァリア地上軍は戦死したゼール陸軍兵士の中に、容姿や年齢構成が著しく類似した個体が多数存在することを確認した。これを受けて遺伝子検査を実施した結果、当該兵士がクローン兵であることが判明した。これらの兵士は、ゼールが開発した強化クローン兵「シュッリルムスライト」と呼ばれる存在であった。クローニング過程で発生する遺伝子異常を低減する技術の一環として、女性由来の遺伝子が利用されていたことも明らかとなった。

 サーヴァリア政府はこの事実を公表し、ゼールが重大な倫理違反を行っていると主張した。この発表は国際社会に波紋を広げ、特にサーヴァリア支援に慎重であったヴァルエルク国内の左派勢力の立場を弱体化させる効果をもたらした。これに対しゼール政府は、強化クローン兵士の存在を認めた上で、当該兵士に対して戦後の市民権付与を約束していること、および各個体の人格と権利を尊重していることを発表した。また国内向けには、技術福祉国家として国民の生命を守るための合理的措置であると説明した。さらに、サーヴァリアによるドルーニアでの人権侵害やエルナー・ゲリテーンでの戦争犯罪疑惑を挙げ、国際的非難の相殺を図った。

 レーウス協定評議会では、ゼールに対する非難声明および経済制裁決議案が提出された。これに対し、サーヴァリア王国連邦、ヴァルエルク共和国、カーラネ連邦共同体、グラーティア等が賛成した。一方、ゼール帝国連邦、エルトワール公国連邦が反対し、カーラネ社会主義連邦共和国、プトーキン、ハトレーヤ王国等が棄権したため、決議案は否決された。

 エルトワール公国連邦およびカーラネ社会主義連邦共和国は、合理主義的立場から、技術者階級国家であるゼールがクローン技術によって兵力を補完することを戦時下における合理的選択と評価したとされる。また、レーウス協定加盟国内の一部では、ゼールの事例を契機として、人間への遺伝子改良研究を加速させる動きも見られた。この決議過程は、レーウス各国の倫理観および安全保障観の相違を顕在化させる結果となった。

戦線の膠着
斥候として活躍するヅィーラ提督

 惑星エルナー・ゲリテーンは人口規模の大きい惑星ではなかったが、サーヴァリアは戦略的資源の確保を目的として攻略を優先した。しかし、険峻な山岳地形、武装化されたエルナー人部隊、ならびに強化クローン兵シュッリルムスライトの投入により、サーヴァリア地上軍は想定以上の抵抗に直面し、継続的な増援および戦力投入を余儀なくされた。シンテーア人と共闘したエルナー人はこの戦いで絆を深め、技術啓蒙を受容する様になった。惑星に不時着したヅィーラ提督は論文『1660年式現代艦隊決戦』を書き留めながら、陸軍の反対を押し切って指揮下に入り、勇敢な斥候として活躍した。

 一方、サーヴァリアはEG3星系の掌握に成功していたものの、同星系においてゼール宙軍の小規模遊撃艦隊による断続的な攻撃を受けていた。これらの遊撃戦術はゼール宙軍が従来より得意としていた戦法であり、サーヴァリア陸軍への補給線に対する妨害効果を発揮した。この補給圧迫は、エルナー・ゲリテーン地上戦におけるサーヴァリア側の戦力低下に一定の影響を与えたとされる。

 サーヴァリア宙軍は惑星包囲を維持するため、エルナー・ゲリテーン星系の制宙権を継続的に保持する必要があった。惑星陥落前にヒェルニエ方面へ進撃した場合、補給線の延伸による戦略的負担が増大するほか、天嶺皇国のレウナヴァ星系方面からの反攻により制宙権を喪失する可能性があった。このため、サーヴァリア主力艦隊は最前線への拘束を余儀なくされた。

 ゼール側の外部補給は遮断されていたものの、開戦から3年以上が経過しても惑星陥落の見通しは立たなかった。これにより、サーヴァリアは星間戦争における惑星制圧の困難性を改めて認識することとなった。サーヴァリアはヴァルエルクの外交的支援を背景として講和の打診を開始したが、ゼールは長期戦による消耗戦を志向し、交渉を拒否した。

惑星ヒェルニエでの反乱

 戦争勃発後、ゼールにおいて最大の人口を擁する惑星ヒェルニエでは、50年以上にわたる学者・技術者階級による統治に対し、労働者階級の不満が顕在化していた。反政府活動は徐々に活発化し、社会不安が拡大した。特にヒェルニエに所在する構成国ヴェルゼン監理主義共和国では、過去のヒェルニエ戦争においてシンテーア帝国の侵攻を受けた歴史を背景に、民族主義的傾向を帯びた独立運動が勢いを増していた。

 1663年3月、ヴェルゼン監理共和国連邦において大規模なストライキが発生した。ゼール政府は情報統制を実施していたため、サーヴァリア側が得られる情報は限定的であったが、潜伏中の工作員からの報告を受けたサーヴァリア首相ケデットは、当該勢力への支援を決定した。同時期、ゼールのプロアイス首席が講和に前向きな姿勢を示しているとの情報も伝えられており、サーヴァリア国内ではヒェルニエ情勢の動揺が事実であるとの見方が強まった。

 サーヴァリア地上軍司令官テェッツァ・イグレッドは、エルナー・ゲリテーン攻略に投入している兵力の一部を惑星ヒェルニエ方面へ転用すべきであるとケデット首相に進言した。エルナー・ゲリテーン戦線は膠着状態にあり、地上軍は占領地域の防衛に徹しつつ、軌道上封鎖によってゼール本国との輸送経路を遮断する体制を維持すれば足りると判断されたためである。

 イグレッドは、ヒェルニエの混乱に乗じて地上軍を投入すれば、ゼール経済に重大な打撃を与えられると主張した。また、エルナー・ゲリテーン戦線においては、兵站運用で評価を高めた元会計科将校ハベヂラや、狙撃手チェブワディらの活躍により、練度の高い兵員が育成されていた。一方、ゼール側は精鋭部隊が惑星内防衛に拘束されている状況にあり、戦力転用の自由度に差が生じていると分析された。これを受け、ケデット首相はミルコヴァ提督に対し、艦隊を分散させ主力をヒェルニエ方面へ向けるよう命令した。具体的には、惑星ヒェルニエを擁するHL1星系の星系基地攻略を優先目標とする作戦であった。

 ミルコヴァ提督は、艦隊が2年以上にわたり補給を繰り返しつつ最前線に拘束されていることから士気低下を懸念したものの、軍部方針に従い主力戦力をHL1星系へ進出させ、ヒェルニエ方面への作戦行動を開始した。

ヒェルニエの星系戦

 1663年6月、惑星エルナー・ゲリテーン地上戦の最中、兵站運用で顕著な成果を挙げたハベヂラが中尉から中佐へ異例の昇進を果たした。同将校の統括により、サーヴァリア地上軍は迅速な兵員抽出および再編成を実施し、ヒェルニエ方面への転用を可能とした。ゼール側はHL1星系基地の兵員を事前に撤退させており、サーヴァリア艦隊は同星系をほぼ無抵抗で通過した。さらにヒェルニエ星系においてもゼール艦隊の待ち伏せは確認されず、同星系基地内でクーデターが発生しているとの情報がもたらされた。このためサーヴァリア艦隊は抵抗を受けることなく星系基地へ接近し、地上軍を投入したが、上陸後に基地が無人であることが判明した。加えて基地システムが停止状態にあったことから、サーヴァリア地上軍は異常を察知し退避を検討した。

 その直後、HL3星系およびヴェオン・レギト星系方面から天嶺艦隊およびゼール艦隊が出現し、サーヴァリア艦隊は二方向から長距離攻撃を受けた。サーヴァリア側は、星系基地からの撤退、惑星ヒェルニエへの降下準備を行っていた地上軍の護衛、ならびに敵艦隊への応戦を同時に遂行する必要に迫られ、惑星近傍に拘束された状態で一方的な遠距離攻撃を受ける不利な戦況となった。

 ゼールは1662年13月に最新鋭戦艦ギャッコーおじさん級2隻を竣工させており、これを含む艦隊戦力の再建に成功していた。戦力回復を果たしたゼール・天嶺連合艦隊は、戦術的優位を確保した。

 この状況下で、ミルコヴァ提督は反撃による戦局打開を断念し、地上軍の護衛を最優先とする撤退を決断した。HL1星系への退避を図ったが、同星系にはゼールの遊撃艦隊が展開しており、これに拘束された場合、ヒェルニエ方面から追撃してくる主力艦隊に捕捉される危険があった。そのためミルコヴァ提督は損害拡大を承知の上で、攻撃を受けつつも艦隊を離脱させる判断を下した。

 後に明らかになったところによれば、惑星ヒェルニエにおける反乱は一部事実であったものの、ゼールのプロアイス首席が意図的に情報を誇張し、誘導作戦として利用したものであった。結果として、サーヴァリアは陽動により戦力を誘引され、撃退された形となった。

 この撤退に対し、サーヴァリア首相ケデットは強い不満を示したが、宙軍総司令官ブレッド・ソリオンはミルコヴァ提督の判断を承認した。ソリオンはEG3星系へ予備艦隊を展開し、追撃してくるゼール・天嶺連合艦隊を迎撃する構想を策定していた。

第二次EG3の戦い

 1663年7月、EG3星系へ撤退したサーヴァリア艦隊は、本国より派遣された予備艦隊と合流し、追撃してきたゼール・天嶺連合艦隊の迎撃を試みた。

サーヴァリア艦隊旗艦、戦艦ハブレコン

 しかし、サーヴァリア主力艦隊は2年以上にわたりエルナー・ゲリテーン星系に拘束されており、戦力の一部増強は行われていたものの、多数の艦艇は十分な改修を受けていなかった。一方、ゼール艦隊は本国において対サーヴァリア戦を想定した改修および装備更新を完了しており、戦力の質的向上を達成していた。

 EG3星系においてサーヴァリア艦隊は戦力規模を回復させたが、ヒェルニエ方面から敗走してきた本隊の士気は低下していた。加えて艦艇改修状況の差異が戦闘力に影響し、ゼール・天嶺連合艦隊の攻勢を阻止することはできなかった。戦闘の過程でサーヴァリア艦隊旗艦ハブレコンは集中攻撃を受けて大破し、事実上の戦闘不能状態となった。ミルコヴァ提督は、ゼール艦隊司令アレート・ガンラッダ提督に対し、離脱したサーヴァリア兵の救助および人道的待遇を要請する通信を送信したとされる。その後、ミルコヴァ提督は責任を取る形で戦艦ハブレコンと運命を共にした。

 

ゼールの反攻

 EG3星系会戦でサーヴァリア艦隊を撃破したゼール・天嶺連合艦隊は、損傷艦を修理および補給のため後退させた後、主力をもってドルーニア星系の制圧を実施した。ゼール陸軍は惑星ドルーニア解放のため地上降下を行い、同星系の奪還に成功した。その後、連合艦隊はサーヴァリア領内へ侵入し、惑星ハベヂレゴの軌道上まで進出した。一方、サーヴァリア艦隊はリーファイ星系へ退避していたが、これに対抗する戦力を保持していなかった。

 1664年6月、ゼールはサーヴァリア各惑星の生産拠点に対する精密砲撃を開始し、戦略的経済基盤への直接的圧迫を図った。これによりサーヴァリア経済は著しく疲弊した。さらに1665年2月、ゼール・天嶺連合艦隊はサーヴァリア首都星系であるリーファイ星系へ侵入し、軍事的圧力を強化した。

 この時点でサーヴァリアは艦隊戦力の再建が困難な状況にあり、地上戦による防衛継続は可能と見られていたものの、経済基盤の崩壊を回避するためには譲歩を伴う講和が必要であるとの見解が国内で優勢となった。

 サーヴァリア首相ケデットは開戦以降、ヴァルエルクの参戦を繰り返し要請していた。しかしヴァルエルクは、プトーキンの拡張的動向への警戒に加え、宙圏西方においてレーウス外星間文明の存在を察知していたことから、戦争への直接介入には慎重な姿勢を維持していた。ヴァルエルクはサーヴァリアに対して多額の経済支援および戦時国債の購入を実施していたが、ゼールによる本格的な領内侵攻が開始される前に、和平仲介へと外交方針を転換した。

 ゼール・天嶺連合艦隊がハブレコン星系基地および惑星上の軍事施設への精密砲撃を実施すると、サーヴァリア国内では厭戦感情が拡大した。これによりケデット政権は総辞職に追い込まれ、後任首相プロドログ・ラデゴが就任した。ラデゴはゼール・天嶺両国との和平交渉を開始した。

リーファイ平和条約

 平和条約交渉はゼール側が多額の賠償金や戦争犯罪人の身柄提供を要求したため難航したが、ゼール・天嶺両軍もサーヴァリア主力惑星の占領は代償が大きすぎるとして踏み切れなかったことから、戦線が膠着し、1666年4月に和平条約が締結した。

平和条約を結ぶサーヴァリア・プロドログ首相とゼール・プロアイス首席

条約においてサーヴァリアは、ゼールおよび天嶺両国に対する開戦責任を認め、一定額の戦争賠償金を支払うことを受諾した。ただし賠償は一括支払いではなく、二十年にわたる分割償還方式とされ、併せて戦略物資の優先供給契約および一部産業分野における市場開放が規定された。この賠償金はゼールが被った経済損害からすると譲歩した額であり、象徴的な賠償となった。

 戦争犯罪人の引き渡しについては、惑星ドルーニアおよび惑星エルナー・ゲリテーンにおける軍事行動に関する責任の所在を巡り激しい議論が交わされた。最終的に、サーヴァリアが賠償金の支払いで譲歩したことから、全面的な指導層引き渡しは回避された。

 また、天嶺皇国はレーウス協定評議会への正式参入について各国の同意を求め、サーヴァリアはこれを受諾した。天嶺皇国は惑星レーウスを発祥とする国家ではなかったため、従来はレーウス協定における発言権を有していなかった。特にゼールを仮想敵と位置付けていたヴァルエルクおよびサーヴァリアは、天嶺皇国の参入に対して慎重または否定的な立場を取っていた。しかし、天嶺皇国はゼールの技術的支援を受けて産業文明から急速な発展を遂げており、レーウス列強の一角として承認されることは同国にとって長年の外交目標であった。今回の戦後合意により、天嶺皇国の理事会参入は実現する見通しとなった。

戦後のサーヴァリア

 リーファイ平和条約締結後、サーヴァリア王国連邦は急速な経済的動揺に直面した。戦時国債の大量発行および賠償金支払い義務は国家財政を圧迫し、通貨価値は大幅に下落した。これに伴い輸入価格が高騰し、生活必需品の供給不安と高インフレが国民生活を直撃した。都市部では物価が短期間で倍増し、実質賃金の急落が社会不安を拡大させた。

 特に戦略的生産拠点としてゼール艦隊の精密砲撃を受けた惑星ハベヂレゴでは、産業基盤の損耗と失業の急増が深刻であった。復興の遅れに対する不満は、戦時指導層および既存支配階級への批判へと転化し、労働組合を母体とする共産主義運動が急速に拡大した。ハベヂレゴは戦後混乱の象徴的地域となり、後の内戦における主要戦域の一つとなる。

 一方、戦時中よりゼール諜報網の影響を受けていた知識階級・技術者層は、共産主義勢力とは異なる立場から既存政治体制への批判を強めた。彼らは学術・技術合理性に基づく統治を掲げ、監理主義的思想を形成し、独自の政治結社を設立した。この勢力は産業復興と社会安定を標榜しつつも、急進的革命路線とは距離を置いたため、社会の中間層および一部軍人の支持を獲得した。

 中央政府は、敗戦責任問題および賠償負担を巡る政争の激化により求心力を急速に喪失した。議会は分裂し、地方自治体の統制も弱体化した。この政治的空白の中で、戦時特需によって資本を蓄積していた財閥および企業連合が経済復興の主導権を握り始めた。彼らは外資導入と産業再編を提唱し、独自の治安維持組織や傭兵部隊を整備することで実質的な影響力を拡大していった。

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